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「神様」川上弘美 [読書]

ほのぼの、不思議なことが淡々と起こる、9編の短編です。
表題作の「神様」は、川上弘美さんの初めて活字になった小説だそうです。

神様

神様

  • 作者: 川上 弘美
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1998/09
  • メディア: 単行本


最近、不思議ちゃん系の話で当りがないなぁと思っていたので、最初に「くまに誘われて散歩」なんて書き出しを読んだ時、失敗したかなぁ、と思いました。
でも、全体に主人公が淡々としているからかな、すんなり受け入れられました。
この分かれ目ってどこなんだろう?
不思議ちゃん系の話で、「はあ?ありえないよ」と思っちゃうのと、「いいな」と思えるのと。

主人公の周囲には、ちょっと日常から外れた出来事が起こります。
三つ隣の部屋にくまが引っ越してきたり、梨の子(?)を飼ったり、友達のウテナさんの失恋が「人間界でもっとも奥深い失恋」だと見なされ河童の世界に招かれたり、壷を磨いたらコスミスミコが出てきたり、真上の部屋のエノモトさんが人魚を拾ってきたり。
主人公が淡々と過ごす日々の中で、それらは起こります。
かなり個性的な「不思議」たちです。

読んでいるわたしとしては、

昔気質のくまが、背を向けて主人公が渡したオレンジの皮を食べる姿や。
梨の子(?)の一匹が「ぼくだめなのよ。いろいろだめなの」と言うのを聞いたり。
「もう目覚めなくていいんだ」と言った途端に消えた叔父さんや。
ウテナさんを呼んで、一体何か解決したんだろうか?という陽気な河童の世界や。
コスミスミコの涙や。
えび男くんと主人公の考える、ものの形や。
伝承の世界に足を突っ込んでいるくせに、のど飴が駅前の薬局で安いことを知ってるカナエさんや。
人魚に「このひと」という表現を使う主人公の逡巡や。
荒い息を主人公の顔にかけないようにしている、くまのてのひらや。

そんなものの一つ一つに、刺激を受けたのだと思います。
わたしを刺激する、何かがあったのかもしれないです。

そして、触ることのできない饅頭や、カナエさんの梅入り焼酎や、くまの作った赤ピーマン焼いたのや、飲みまくっているワインや…それらが美味そうで、そこがいいのかも。
食って基本、みたいなところがあるからでしょうか。
そして不思議なことがあっても普通に仕事したり、不思議なものたちと飲んだり騒いだり、それが楽しそうだからいいのかな?

そして今の自分としては、コスミスミコの姿で泣きました。(久々だ!有給もらった今日、銀行でさまざまな手続きの待ち時間で泣いてました)
チジョウノモツレで刺されて死んで、迷って、なんだか壷の中の住民になっているってのに、明るくて能天気で馬鹿っぽい喋り方して酒飲みで、でも料理がうまくて素直で。
そうして時たま彼を思い出して泣いてしまう、コスミスミコが。

長く長く生きて(死んでるんだけど)るのに、きっと人はそこは捨てられないのだと思ったからかもしれません。
そんなコスミスミコがうらやましかったのかもしれません。
世界中の誰でもない、その人にだけ好かれればよかったのに。
その心は、痛いです。


こういうのを考えちゃうのは、興ざめでよくないと重々承知で。

カナエさんの話は異類婚礼譚をもとにしていると思うのですが、日本に流布している異類婚礼譚はちょっと事情が違う気がします。
女性が人間の場合、相手の異類はひどい目に合わされるイメージが強く…猿婿なんかは人情なさすぎで、そっちに腹が立つくらい。
学生の頃、ムカムカしながら文献を読んだことを思い出しました。


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